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第294話

瑛介は本当に彼女と離婚したくないと言ったのだ。

彼は一体、自分が何を言っているか分かっているのだろうか?

彼が自分と離婚しないのであれば、奈々と結婚しないのだろうか?

以前、彼はずっと、自分のそばにいるべき人は奈々だと言っていたのに。

弥生はそんなことを考えながら、瑛介のオフィスでぼんやりとしていた。

その時、入口から足音と押し問答の声が聞こえてきた。

「宮崎さんは会社にいませんから。オフィスに行っても無駄ですよ。中には誰もいませんよ」

「あなたが私を嫌っているのは分かっていますが、私は瑛介の友人です。彼がいないなんて嘘をつくのはよくないですよ」

「嘘はついていません。本当に出かけていますから」

「本当かどうか、オフィスを見せてくれれば分かるわ。もし彼がいないなら、すぐに帰るわ」

二人が言い争いながらオフィスの前まで来ると、平は奈々がどうしても上がりたいと言うので、無理に止めることもできなかった。

彼はまだ、奈々が瑛介にとってある程度重要な存在であることを理解していたからだ。

仕方なく彼女をここまで来させたが、奈々がオフィスの前に来た瞬間、彼女の目は大きく見開かれた。

「このドア、開いてるじゃない。平、嘘をついたのね」

そう言いながら、奈々はドアを押し開け、オフィスの中へ駆け込んだ。

「瑛介」

しかし、オフィスにいたのは瑛介ではなく、白いコートを着てソファに座っていた弥生だった。

「あなた、どうしてここにいるの?」

奈々は驚き、少し戸惑った様子で弥生を見た。

彼女は反射的に手を上げ、額の傷を隠そうとしたが、包帯が巻かれていることに気づき、隠すのをやめた。

これは奈々が怪我をして以来、二人が初めて顔を合わせた瞬間だった。

「霧島さん、江口さんが宮崎さんを探しているんですが、いらっしゃらないことをお伝えしたんですが、信じてもらえなくて......」

「分かりました」弥生は平に頷いて言った。

その後、奈々に向き直り、「周りを見て、瑛介は今日はここにいないわよ」と冷静に言った。

奈々は、まるで自分が主人のように振る舞う弥生を見て、心の中で怒りが沸き上がった。

もし自分が海外に行かなければ、今の二人の立場は逆だったのではないか?

そう思うと、奈々は口元を少し歪めて微笑んだ。

「彼がいないなら、あなたに話すことがあるわ」

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